マイク・ジャッジ『シンディにおまかせ』Extract(2009)を観ました。

 ジェイソン・ベイトマン演じる主人公ジョエルは食品の香料を製造・販売する会社を経営している。子どもはいないが、結婚して美しい妻がいる(妻はクリステン・ウィグが演じている)。会社の経営は順調で、大手からの条件のいい買収話もあり、それが実現すればジョエルは若くして悠々自適の生活を送ることができそうだ。

 そんなふうに彼は成功者であって、何不自由ない暮らしをしているように見える。悩みといえばここ最近、妻とのセックスがご無沙汰である、ということくらい。

 ある日、工場の生産ラインでスタッフの一人が片タマを失う事故を起こす。それを新聞記事で読んだサギ師の若い女性、シンディ(ミラ・クニス)はジョエルの会社に臨時工として入社、思わせぶりな態度でジョエルに取り入る一方で、休職中の片タマ男に近づき入れ知恵して、ジョエルの会社を相手取って損害賠償を起こさせる……というようなお話が基本、軽くてバカで下品なノリで進められるコメディなのだが、「軽くてバカで下品だから」いい加減な映画だ、というわけではない。

 ジョエルの社員たちも友人も、バカでいい加減な人間ばかり出てくる映画のなかで、ジョエルは一見インテリで真人間のようだが、会社を売り抜けることとか妻とのセックスレスのこととか、若くてエロいシンディとの不倫とか、目先のことしか考えない子どもみたいな奴だ。シンディに色仕掛けさえれて彼女と不倫したくて、妻への後ろめたさから、まず妻に不倫させようと若い男を金で雇う(その男がまたとんでもない脳タリン)とか、アホくさい話の積み重ねのように見える(そのように演出している)けど、こんなストーリーも、演出によってはデヴィッド・フィンチャーの『ゴーン・ガール』のように重々しいノワールにだってなる。

 かっこつけててもバカはバカなんだから、ちゃんとできるところはやんなきゃなんないよ。なんでも金で解決していいわけじゃない。……そんな意外と教育的な話なのではないか。ラスト、シンディに去られたジョエルは会社を売らず、妻ともヨリを戻す。シンディはジョエルからふんだくるのをあっさり諦めて、取れるところ(KISSのジーン・シモンズ演じる弁護士!)から盗って映画から退場する。

 バカ話から何を抽出(Extract)するかはわたしたちに委ねられている。

シンディにおまかせ [DVD]

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