マイケル・グランデージ『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』Genius(2016)を観ました。

 F・スコット・フィッツジェラルドアーネスト・ヘミングウェイを見い出し、世に送り出したとされる編集者、マックス・パーキンズと、同時代のもう一人の天才作家、トマス・ウルフとの交流を描いた作品。

 伝記映画であって、事の成り行きは観客にとって、周知かあるいは調べればわかるもので、この作品の場合、より一般にも有名なフィッツジェラルドヘミングウェイではなく、トマス・ウルフに焦点を当てているところが肝なのだろう。本国での現在の認知度は、日本よりはあるのかも知れないが、一般的にはそれほど知られていないのではないか。だからこそ、ドラマ映画になりうる。

 そして、具体的なエピソードがどれくらい、事実に則しているのかどうか、なかなか破天荒な人物で、芸術家肌、天才肌の作家だと伺える。しかし本人の人生がどうだったかはともかく、この映画で描かれるウルフは、フィクションの登場人物としてよくある「天才肌の作家」然としたたたずまいの範疇である。

 原題に”Genius”(天才)とある。実在の天才を伝記映画として描く場合、その伝記の作り手や、その伝記の「作り」が凡庸であっては、伝記は天才の天才性を描くことはできず、「天才に振り回された周囲はこんなに大変だったんだね」という話にしかなりにくい。

 この映画もそういうきらいがある。写真を見るとウルフ本人によく似ているジュード・ロウや、編集者パーキンズを演じるコリン・ファースに雰囲気はあるけれど、天才としても、ひとりの生活者としても、彼らがわたしたちの隣人であるような、その息づかいまでは聞こえてこなかった。これよりも、少し前に観た、よりB級でマイナーな邦題と雰囲気の『人生はローリングストーン』の方が、ずっと生き生きしていて、よかった。