デビッド・ゼルナー『トレジャーハンター・クミコ』Kumiko, the Treasure Hunter(2014)を観ました。

 コーエン兄弟の映画『ファーゴ』を本当に「実話」と思い込んで、映画のなかでスティーヴ・ブシェミが埋めていた大金を探しにいき、ノースダコタの荒野で凍死した日本人女性の話――この映画を一行で要約するとこうなる。

 菊地凛子が演じるクミコの孤独な日常と、そして自らそれを破壊、というより消失点へと向かわせる「ファーゴ」への旅を、ドキュメンタリーのように淡々と描くこの作品はしかし、モデルとなった「タカコ・コニシ事件」を基に自由に想像の翼を広げたストーリーだという。実際にこの女性が『ファーゴ』のお宝を探しに行ったのかどうか、どうもそういうことではなかったようだ。

 クミコの日本での日常やアメリカで出会う人たちとの、交わることのないコミュニケーションはとてもヒリヒリする。会社の上司に「妻へのプレゼントを会社のクレジットカードで買って来い」と言われるくだりなど、話を進めるための部分は十分にありきたりなフィクションだが、終始無口で、時折訥々と、しかし思い詰めて「ファーゴに行きたい」と懇願するクミコの地を這うような孤独には、本当に彼女が私たちの隣に暮らしているようなリアリティがある。それもちょっと目を背けたくなる、見なかったことにしたいくらいの。そこに私たち自身の姿を見てしまうと言ってもいい。

 だからこそ彼女にとってのアメリカン・ドリームの結末は、あのようにささやかな美しさをもって描かれなければならない。純白の雪景色、「“白い”フィルム・ノワール」の『ファーゴ』の舞台であった必然が、彼女にはあったのだと思う。

 一種殺伐とした人物を演じてさえ、そのなかにある小さな輝きを見せることのできる、女優・菊地凛子さん。ますます好きになりました。これからも、こういう小規模の映画でもいいので(もちろん大作でも)、もっともっと主演作品を見たいなぁ、と思いました。