ジョン・カーペンター『ニューヨーク1997』Escape from New York(1981)を観ました。

 1997年のアメリカは犯罪増加率が400%を超えていて、だからマンハッタンを監獄島にして囚人をぶちこんで看守もおかず、閉じ込めておくことにしたんですよ――みたいな感じのことがさらっと字幕とナレーションで語られて映画が始まると、もうぜんぜんふつうの映画じゃなさそうなことがわかって、意外にもまったりというかねっとりというか地味に進行する序盤にもかかわらずどきどきする。

 お金を出した人とか観客とか、作るまえから観られるまえから他人のことを忖度して作られた作品ではぜんぜんない。どうみてもこれは「監督の映画」で、シネフィルじゃなくてもジョン・カーペンターというのが一癖もふたくせもある監督らしい、ということをうすぼんやりと聞いたことがある、とかいうことを抜きにしても、そういうことがわかる感じ。

 こういう人にとっては今生きている世の中は、つまんねえのと同時に、「ちょろい」んじゃないかな、とちょっと思う。自分が仕事や生活のことでもやもやしたりぐずぐすしたり一喜一憂してるのが少しばからしく思えて、ちょっとだけ心が軽くなる。いや、映画のなかで進行するのは、クソみたいな未来の、権力者も大衆も腐りきった、身も蓋もないばかみたいな話なんですけど。

 1997年というとわたしが大学に進学した年で、というと一人暮らしを始めた年でもあるので自分史的には分岐点なのでよく覚えている年で、ここまでの現実じゃなくてよかったな、と思うと同時に、未来ってこういうふうにも想像できるのか、ふざけてるみたいだけどでも、ちゃんと(?)した映画として30年後もこうして楽しめるものを作れる人はすごい、と思いました。