朝はパン

1.
 ある男性のミュージシャンはステージに上がるとき、理性によって自分のリビドーを抑えてはならない。と語った。たとえば女性アーティストと共演する。現実で彼女と社交する際には、例えば彼女に対して性的な感情を持ったとしてもそれは抑えらえる。しかしステージの上で最高のパフォーマンスをするためには、それを抑えてはならない。ということだった。

2.
 病院で心理テストを受けたあと、担当の臨床心理士の方(女性)が主治医の診察室へ案内してくれた。わたしは先ほどのテストで図形的な操作、算数、計算の類があってそういうものに対して苦手意識があるといった。彼女はそれに対して、
「十分できていますよ。苦手意識は持たなくていいと思います。」
 といった。また歩きながらわたしは、
「この病院はすごく敷地が広いですね。迷ってしまいます。僕は空間認識能力にも自信がないというか、例えばお店とかに入って、出るときに右から来たか左から来たか、わからなくなったり。」
 といったら、彼女は、
「でも笑い話にできるレベルですから、いいと思いますよ。」
 と返してくれた。ということは「笑い話では済まないレベル」の話を彼女は職業柄、たくさん知っているのだろうと思って、どきっとした。

3.
 小沢健二の母である臨床心理学者、小沢牧子の本を少し、読み始めた。氏は心理テストやカウンセリングを実践する心理臨床職として携わったのち、現在は、今ある臨床心理学、カウンセリングの技法に批判的な立場で活動を続けているようだ。小沢健二の著作もその影響下にあると思う(読んだのはもう何年も前になるから記憶があいまいだが、『企業的な社会、セラピー的な社会』は小沢牧子氏と同様「心の管理」を批判する内容であったと記憶している)。
 小沢母子のいうことはもっともだという気がする。けれどわたし個人の問題としては、臨床心理士の仕事やカウンセリングを頼ることによって、わたし自身の心の平安を保ちたいとも思っている。
 原理原則や理想だけを語っても、それだけでは現実には対処できない、という問題。