ふるさと以外のことは知らない。

 カマキリやクモなどの肉食性の小動物は、雄に比べて雌が一回り大きいものが少なくありません。そして、交尾後に栄養分補給のために、交尾を終えて用済みになった雄を食べてしまう習性を持っていると考えられていましたが、これは人間が勝手な理屈で都合よくつくられたお話にすぎないことがわかってきました。
 肉食昆虫にとっては、動くものに対して食べるべきか食べないべきか躊躇していては、その一瞬の間に獲物に逃げられてしまいます。そのため、同じ種類であろうが何だろうが、動くものを瞬時に捕らえる必要があります。
 カマキリの雄は交尾のために雌に近づく際に、常に雌から食べられるという危険にさらされます。もし、交尾の確率より、食べられる確率が高ければ種が途絶えてしまうことになります。そこで、雄のカマキリは奥の手ともいえる手段を持っています。それは、頭を雌に食べられると、驚くことに頭を失って残った体だけて交尾行動に入るという習性を持っているのです。つまり、交尾の前にすでに食われていたわけです。
 このように、人間がまことしやかに定義した生物の習性の中には、まだまだ未知の真実が隠されていることでしょう。
阿達直樹『昆虫の雑学事典』(日本実業出版社)138~139ページ

モッコク
ツバキ科の常緑樹で、果実や葉柄が赤い。材も赤みを帯び、緻密(ちみつ)で堅く、強度は大。そのため床柱、掛け軸、細工物などに重宝される。琉球では首里城の建築に使い、庶民の伐採を禁じた。和名は木斛(もっこく)。六、七月に咲く花にラン科の石斛の香りがするからという。紀伊南部では正月に門に立てた。
湯浅浩史・文、矢野勇・写真『花おりおり2』(朝日新聞社)109ページ