エヴァーグリーン。

 片岡義男の小説が青空文庫にいくつか登録されています。詳細は知らないけれど著者の希望なのでしょう。いま、『時差のないふたつの島』をPocket WiFi Sで読んでいます。とても面白い。文章のレベルで、わたしがいちばん好きなのは片岡義男で、片岡義男の小説には片岡義男の小説にしか書いていないことがたくさんある(でも世界には「ある」こと)。雨雲の描写とか、店内の様子とか、カーラジオから流れるコマーシャル・メッセージとか、「こういうふうにはほかの小説には書いていないだろうな。」と感じます。そういうものが、気分や状況を暗示・暗喩しているように見えない。それらのものを評価している、という感じもしない。だけどとても精密に書かれている。片岡義男のエッセイを読むと、世間や社会のありようには、かなりのレベルで絶望しているように感じられる。環境問題など、20年も前のエッセイで、かなり辛辣に絶望を語っていた(しかし、「暗さ」のようなものもない)。だけど世界を精密に見ることで見えてくる世界じたいの「精密さ」「完璧さ」には心底惚れ込んでいて、それを文字に置き換える、文字のつらなりを読むことでそれがふたたび立ち上がることを愛し、それがわたしたちを「救う」ことを知っているんだと思う。