メディウム。

 豊田徹也『珈琲時間』(講談社アフタヌーンKC)。おもしろかった。財布に1000円入っていたので買うことにした。ずっとまえから書店でみかけて気にはなっていたが買うにいたらなくて、というのは、わたしはさいきんのマンガにはうとくてこの作家も知らないが、おもしろそうではあるが表紙・絵柄からある程度想像できるような気がして想像を超えるものではないだろうと思っていたからだった。
 読んでみると想像とはちがっていた。絵柄は思ったよりきちんと写実的・映像的に描きこまれていて、ふつうにニューウェイヴというか大友以降の感じ。10ページちょっとの短編ばかりを集めた本で、そのことは裏表紙をみるとわかるのだが、そのことで想像していたマンガの感じではない。もっとなんでもない、なんにも起こらない(ようで、じつは起こっている)というタイプのフィクションかと思っていたが、けっこうマンガ的に展開する。ちゃんとオチがあったりもする。しかしオチらしいオチがない話や、ふつうのフィクションの導入部くらいの終わり方をする話もある。
 すべての話にタイトルどおりコーヒーが出てくることだけがつながっているのだが、前半はんぶんくらい読んでいるあいだは、「よくできたマンガ」くらいにしかおもっていなかった。けれどこれはマンガを登場人物のストーリーを読むものと思っている先入観で、筋やオチ、ギャグやくすぐり、細部まで人間の話と思っていて、コーヒーを小道具だとかんがえるからそうなるので、このマンガではコーヒーが主人公というか主題、主旋律だということになれば、コーヒーの「立場」からみれば傑作ということになるのだろうと思った。野球映画におもしろいと思える映画は(ほとんど)ないが、野球の「立場」からみれば出色のものはけっこうある気がする、とかいうようなこと。

珈琲時間 (アフタヌーンKC)

珈琲時間 (アフタヌーンKC)