水玉(マ)−チはなぜ市販されていないのか?

1.
そそくさと仕事を終わらせ、浅く潜って息をひそめているような一週間がすぎ、夕食のあとにツタヤに行くつもりが「ぐるナイ」の「ゴチバトル」を観てしまい(昔からどうにも好きなのだ)、結局観ながらほとんど眠りそうになったので、40分くらいで切り上げてツタヤへ行く。借りるビデオは決まっていたのだが、職場でマンガの話になったので、何かマンガでも読もうと思ってコミック書棚をウロウロするが、まったく読みたいものがない。最近はぜんぜんマンガを読んでいないので、どんなマンガがあるのかもよくわからないが、「ジャケ買い」で何かあるだろう、と思うが本当にない。仕方がないので知っている作家のマンガを、と高野文子の「おともだち」「絶対安全剃刀」などの(いまだに)読めていないものを探してみたがなくて、岩明均の「ヒストリエ」もない。くらもちふさこの最新作が「駅から5分」というのだったな、と思いだして探してみたが、「コーラス」のコミックスそのものがない。それで文庫にすることにして、文庫の棚に行くがこれもない。こういうときはいくら探してもだめで、それでも何か、とぐるぐる廻って、ようやくナボコフ「ロリータ」の新訳(といってもH17年だが)を手に取り、あらかじめ決めていたDVDを持ってレジへ。「ロリータ」は新潮文庫なのに900円もして、ちょっとびっくり(値段を見ていなかった)。しかし本は安い。人生を賭すに足るものが1000円でお釣りがくるのだから、タダみたいなものだ(まああんまりお金は持っていないが)。

片岡 僕もそうだったんですけど、たくさん買って聴いてると、だんだんわかってくることがあるでしょう。俯瞰できてくるじゃないですか。たとえば、いまの下北沢で、一九五〇年代のアメリカのLPが、いくらでも買える。じつに驚くべきことだと思うけれど、アメリカのその年代のものが、いとも簡単に探し出せるわけですよね。じつに半世紀前、一九五〇年代ですよ。五〇年代のLPが買えるのですよ。
小西 もう骨董といってもいいものですよね。
片岡 貴重品だと僕も思うけどなあ。それもたいへん安い。450円とか350円とかで買える。これはタダですよ、事実上は。1000円くらいでもタダです。それを買うだけでも楽しいし、聴いていろいろわかってくることなども考えに入れると、ますますタダだと言っていい。
片岡義男小西康陽 下北沢へレコードを買いに行く」(『下北沢カタログ(改訂版)』フリースタイル)

それにしても、ここのツタヤの品揃えがいかに貧弱だとしても、息をひそめすぎていると世界が開いてくれないのか、と思う。(……というふうに終わるとまとまりがいいのだが、コミック棚で唯一気になった、よしながふみきのう何食べた?」が帰ってきてもやっぱり気になって、ネットで調べてみたらますます読みたくて、たぶんこんど買いに行くと思う。)

 ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。ロ・リー・タ。舌の先が口蓋を三歩下がって、三歩めにそっと歯を叩く。ロ。リー。タ。
 朝、四フィート一〇インチの背丈で靴下を片方だけはくとロー、ただのロー。スラックス姿ならローラ。学校ではドリー。署名欄の点線上だとドロレス。しかし、私の腕の中ではいつもロリータだった。
ナボコフ『ロリータ』(若島正訳、新潮文庫

2.
この10日あまり、そんなふうに息をひそめていたことが原因で、パタゴニアン・オーケストラのフリーペーパー「Patagonian Orchestra Press」第2号の制作が遅れている。バンドの皆さん、ごめんなさい。この週末には、ある程度のめどがつくようにするつもりです。