オレらからこの夏は奪えないぜ

抜書き。佐々木中『この日々を歌い交わす アナレクタ2』(河出書房新社)より。

佐々木 (……)その後宇多丸さんと長い対談をする機会があって。その打ち上げで渋谷のバーで朝まで飲んだ時がありましたね。そこで僕は、いま言った反発心から、「俺はずっとハードコアでいたい。入門書だの解説書だの書きたくない。それで売れないなら売れなくてもいい」と言ったんです。すると宇多丸さんが急に顔色を変えて物凄く真剣に「お前はおかしい。お前の頭の中には、『ハードコアで売れない』か、『ダサくて売れる』か、その二択しかないじゃないか。ハードコアでもちゃんと間口を拡げて売れるっていうことが、俺らがやってきたことなんだよ」って懇々と諭されたんですね。
宇多丸 完全に酔っぱらって強気の時の発言ですね(笑)。
佐々木 しかもそのあと、続けてこうも言ったんです。「金のためでもない、名誉欲のためでもないとしたら、何で頑張ってハードコアなまま間口を拡げないといけないかわかるか? 間口を拡げると売れ線に走ったと言われる、しかも一般の人たちにはまだハードコアすぎて聞きづらいって言われる、両方から批判されるんだ。それでも、何故やるか? だってさ、先輩に凄いハードコアなことをやってて、しかも売れてて食えてる人たちがいたら勇気が出るじゃないか。後輩に、後から来る奴らのために勇気を与えないといけないんだよ。だからやるんだよ。俺の時なんて、日本語ラップで食えるなんてありえなかったんだよ? だからさ、中君は一冊ハードコアでちゃんとした本を書いたんだから、次はこれから来る後輩に対して、そういうことをやらなきゃダメなんだよ。俺に影響を受けたって自称するなら、そこまでやってくれないと。『ハードコアで売れない自分が好き』なんていうのは、――自分のことしか考えてないってことなんだよ!」って。
(145-146ページ「敗北する歓び、敗北者たちの歌 対談――宇多丸×佐々木中」)