LLクールJたろう。

 仕事を頼まれるとどんな仕事もヤダナァー出来ることならやりたくないナァ、でも金がなくちゃ生きていけんよなあと思い、締め切り間近、あるいは締め切り過ぎまで、良心の呵責とたたかいながら、どんなに閑でも手がつけられない。その間中ずっと胃袋がどんでん返すようによじ切れて、時々胃散を飲んだりしている。さっさとやれよなと何十年も毎日休日祝日、盆、正月の区別なく胃袋がよじ切れて、そうして私の一生は終わるのだろう。仕事が大好きな人が居るのだろうか。顔を見てみたい。「あんたやり始めたら早いじゃん、さっさとやればいいのに」と常識豊かな人は云う。「やだよ、そんなに仕事したら金持になってしまう」「あんた、金持嫌いなの」「嫌いだね。カツカツに食うのが性に合っている。金持、顔が干からびてると思わない? 金持になったら心配で仕方ないじゃん」
 金が欲しいときもあったさ、欲しい時は欲しいものがあったのさ、でも今、欲しいものないのさ、欲しいと思うのはエネルギーなのだ。運転しながら、そうだ働くより節約しよう。昨日、食費月一万円で暮らしている人がテレビに出ていた。すごく頭をフル回転させて楽しそうだった。だいたい冷蔵庫の中がすっきりしていた。

佐野洋子『役にたたない日々』(朝日文庫)、63〜64ページ

 久しぶりに仕事帰りに本を買った。あまりにも面白いので、いっぱい書き写したいと思っています。佐野洋子さんは『100万回生きたねこ』で有名な絵本作家、エッセイスト。この本は2003〜2008年までの長めのエッセイを時系列に並べたもの。2010年に72歳で亡くなっているから、晩年ということになる。そういう人が書いている文章だと思うと、ものすごくうれしくなる。解説にも書いてあるけど、本当に役に立つ本。明日で34歳になります。