変化していくものの一歩手前にいること。
変化していくものの一歩手前にいること。
映画『ゲゲゲの女房』(鈴木卓爾監督)をDVDで観ました。一度観たあと、収録されている監督によるコメンタリーを聴いていて、上の
「変化していくものの一歩手前にいること。」
という鈴木監督のコメントに天が啓かれたような感じを受けました。映画というジャンルのなかでどれほどの傑作なのか、わたしはシネフィルじゃないし人並み以下の量の映画しか観ないのでわからないけど、わたしにとってはとても素晴らしい映画でした。「映画でした」というか体験でした。
映画の舞台は水木しげるの貸本マンガ家時代、昭和30年代ということになっているけど、何の説明もなく今の東京駅や調布の街並みが出てきたり、電光掲示板のついたバスが出てきたり、時代考証が厳密にされているわけじゃない(というか、積極的に破綻させている)。
妖怪がたくさん出てくるけど、「この人は妖怪ですよ。」と説明されない。
貧乏だったり、(主人公や観客にとって)感じのわるい人たちがたくさん出てくるけど、陰鬱にならない。粗末な食事がとてもおいしそうに見える。
家のなかにいるシーンが多くて、薄暗いシーンが多いのに、なんだか風通しがいい。涼しい。
ものごとを考える姿勢として、ものを作る姿勢としてとても刺激になるし、共感もできる。
たぶんずっと観てると色々発見があると思うんですよ。でも何度も観ると、観すぎるとぜったい取りこぼすところが出てくる。だらだらしているように見えてすごく緊張を強いる映画なんじゃないかという気もしました。
でもだらだら観れるところもいい。
「はっ、はっ、はっ。」
とくに、宮藤官九郎演じる水木しげるがこういうふうに笑うところはなんともいえずよくて、あえていえばすごく勇気を与えられる。映画の内容・ストーリーと関係なく、その笑い声、笑い方で。
「生きててよかった。」とも思うし「がんばろう。」とも思うし「よりよい人間になろう。」とも思う。この映画のなかでは、世間の評価としても、吹石一恵演じる妻の布枝にとっても「できた夫」ではないけれど。
でもどう見ても、映画の布枝さんはしげるさんを信じてるんですよね。人間としてこうありたいと思う。
もう一度書いておこうっと。「変化していくものの一歩手前にいること。」
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