聴く見る読む/後ろ向きで前へ進む

1月某日
 TSUTATAに一時間。ソニック・ユースの『デイドリーム・ネイション』。このリイシューはライナーを見ると95年だから、17歳のぼくは、『エクスペリメンタル・ジェット・セット、トラッシュ・アンド・ノー・スター』を聴きながら、ゲルハルト・リヒターの描いたぼやけた蝋燭がジャケットの、このアルバムに思いを馳せ続けていた(結局買うことはなかった)、ということになる。それを14年ののちに借りてきて、今こうして聴いている。一曲目の「ティーンエイジ・ライオット」は、どこかで何度か聴いたことがあるようで、「この曲!」と強く思う。過去を振り返ることは文字通り「後ろ向き」だが、どんなに幸せそうに見えても「今」しかない人生は不幸だと思う。好々爺たちが幸せそうなのは、長い長い過去があるからだ。

1月某日
 鶴田謙二『おもいでエマノン』。著者5年ぶりの新刊コミック。まだ1月だけど、出たのは昨年の本だけど、「今年のベスト!」と思う。ひとコマで心を鷲掴む鶴田謙二の絵(女の子!)ももちろんだけど、時間をめぐるSFやファンタジーは大好きだと、改めて気づく(そういうものは、あまり数は読んでいないが)。「過去を振り返ることは文字通り『後ろ向き』だが、どんなに幸せそうに見えても『今』しかない人生は不幸だと思う。好々爺たちが幸せそうなのは、長い長い過去があるからだ。」ともう一度。

1月某日
 映画『サッドヴァケイション』。素晴らしい映画の中の女性にはカンタンに騙されて、宮崎あおいとよた真帆もいいけれど、ユリ(辻香緒里)、椎名冴子(板谷由夏)が「大好きだ!」と思う。でもこの映画の主役はなんといっても、アサチュウ演じる白石健次の母親・間宮千代子役の石田えりで、どうしてこの母親はこういうふうに存在し、行動することができるのか、ぼくにとってはブラックボックスだった。キャラクターは全然違うけれど、自分の母親が自分にとってブラックボックスなのも、影響しているのかと思った(父親や兄弟は、わりと「わかりやすい」と思っているのだけど)。あとで見た本人の公式サイトやブログ、テレビ(NEWS ZERO)での辻香緒里板谷由夏は、そんなに好きじゃなかった。やっぱり映画の中の女は!

1月某日
 佐藤弘『陽気で哀しい音楽に』。ひさしぶりにゆっくり小説を読んだ。この人は、2004年の新潮新人賞受賞作「真空が流れる」が好きで、というよりそれを読んだときに、書かれていること、読んでいるときの感じが、とても自分に近しいものと感じられ、不遜を承知で言えば「ぼくが書きたかった!」なんて思って、それ以降、いくつか出版された著者の作品になんとなく手をつけられずにいたのだけど、そんなこと全然関係なく、読んでいて嬉しく、楽しくなる本だった(人物たちは、けっこう惑ったり、怒ったりしているのだけど)。今は著者の『オブラディ・オブラダ』を読んでいます。

1月某日
 村田沙耶香『授乳』より「コイビト」。セクシャルな描写の女性作家の小説は苦手で、三篇収められたこの本も、表題作「授乳」だけ読んで、4年間措いていたのだが、ふとその次に収録されている「コイビト」を読んでみた。ハムスターの小さなぬいぐるみ「ホシオ」を「恋人」として愛撫するこの小説も、全然得意じゃないのだけど、今回はなぜか引き込まれて読むことができた。あまり好きになれないラストも、だからといってこの小説を読むことにとってあんまり大きなことじゃない、と感じられて、こういうふうに世界を見ている同世代(著者は79年生まれ)の視点を追うことだけで、(それに対する違和感も含めて)十分に魅力的だった。美しい女性はやっぱり得だなあ、と著者近影を見て思う。

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