ユメ十夜 #3

 数学の小テストが行われている中学校の教室。ぼくは現在の、つまり30歳の自分で、なぜか中学生をやり直している。しかし学校時代のやり直しは、この中学時代だけらしい。クラスに、いくつか知った顔も見えるようだ。中学の数学なんて簡単だから(本当は、「解けてよかった」とほっとしている)時間をだいぶ残して終わり、隣席の友人とこそこそおしゃべりを始めた。それがいつのまにかがやがやと周囲まで拡がり、収拾がつかなくなっていく。
 黙ってテストを監督していた先生がいきなり、怒り出す。
「あんたたち、いつまでそうしているつもりなの。私がずっと黙って見ていると思ってるの?」
 そういう先生は、ぼくが小学校3年のとき、憧れていた担任のA先生のようだ。教壇から生徒たちを見下ろすその姿はなぜか、全裸だ。しかも右手に包丁を持ち、ネギを切り落としながら、
「あんたたちみたいなボンクラを教えるためにね、私は月40万の給料でね、3人の子どもを養ってんのよ。好きでやってんじゃないの。わかる?」
 などと、身も蓋もないことを言う。突然のことに教室は静まり返る。
(けっこう、もらってんな。)ぼくはそう思いつつ、30代後半らしい先生の、裸の、きれいな形の胸を凝視していて、なんか顔がにやけてくるのがわかる。それで目をそらすように横の席を見ると、そこにはPというバンドをやっている、ギタリストのIくんがいて、同じように下世話なにやけ顔でこちらと目が合う。
(おお、同士よ。お前もそう思うか。いい胸だよな?)
 言葉は交わさないが、互いの眼は、そう語っている。
 教壇に目を戻すと、先生はなおも語気を荒げて、ぼくたちを貶める発言を続けている。しかしよく見ると、もうブラウスを着て座っている。
 隣の席のIくんがいなくなっていた。見渡すと、同じバンドのSもいないようだ。
(たぶんあいつら、トイレだな。)そこでさっきの、先生のエロい胸について、寸評を加えているに違いない。ぼくもそれに参加しようと思って、先生に睨まれながら、そそくさと席を立つ。
 そこで目が覚めた。