パート3:散文2

「プール」



 「近くにプールがあります。市民プールです。近頃私はこのプールに通うことを日課にしております」

 手紙は、何度も手紙をかわしあった親しいペンパルにむけて書かれたような、何気ない文章で始まっていた。
 唐突すぎて、三年もゆくえをくらましていた家族からの手紙としては、とても奇妙に思えた。

 まめに洗濯されて清潔さを保たれ、乾いた、それでいてふっくらとした布団から出ると、私はゆっくりと伸びをして、午後をむかえたばかりの暖かな陽射しが、閉じられたカーテンの隙間から差し込む南向きの窓に歩みより、静かにカーテンを開くのです。

 窓の外には緑色が鮮やかな背の高い植木が、矩形に区切られた庭の周囲を取り囲むように立っているのが見えます。
 木々の名前というものを知らずに育ったので、私にはそれが何の木なのかわかりません。
 けれどもそれらはとてもいい感じがします。
 こちらの感情を揺さぶることのない、自然な色合いの緑です。
 私は窓を開けることはしません。
 外気はスモッグに覆われています。
 うっすらとかかる霧のようなそれは、穏やかな陽射しとともに、窓の外の景色を優しく演出しているように見えますが、確かに空気を汚すスモッグなのです。
 数少ないこの場所の欠点でしょうか。

 ああ、プールの話でしたね。でも、紙幅が尽きてしまいました。
 その話はまた次の機会にでも。

 明日の朝もうつくしい太陽が挨拶をするように。

 僕たちのところからはだいぶ遠い地方の、聞き覚えのない街の消印が押された絵葉書は、全体が黄ばんだ古いもので、ミシガン州デトロイトのBriggs Studiumという野球場をバックネット後方から鳥瞰した風景が写実的に描かれていた。

(02.12.16)