パート2:日記

昨日発掘した6年前の自分の文章、一日経って見直してみるとやっぱり暗いと思う。「20代は暗いものだ」ということを言う人がいてそれから僕も「そうかも」「そうだろう」と思うようになっていて(僕はその20代を「数字としては」最近越えた)、そうだとしても「これはちょっと暗いな」と思った。昨日アーカイブから発掘して読んですぐは、それほど思わなかった(にじみ出ている、という程度に思っただけだった)のに、ここに載せてみたら気づいた、というのはネットのせい(おかげ?)だろうか。またなにか考えられるかもしれないので、続いて日記を再録してみる。

■020615

「何が不可能か君にはわかるはずだ
欠点を探すのに必死で気がつかなかっただろ
こんな言葉は慰めにならないだろうが
―可能なんだ」
(映画「ガタカ」)

■020614

さて現在の私は分不相応の恋を得て光りある世界のなかにいる。相手は金魚のC子で、その馴れそめの経緯は以下のとおりである。
(「田紳有楽」)
「人間は美味いとみえるね。孔子も食っていた。うまいけれど自分の子供がどこかで食われると思うと辛いから今後は食うことをやめる、と論語に書いてある。玄奘三蔵が『この地には善悪なし』と云ってるところをみると、やっぱりこの辺でも近くまで赤ん坊を煮て食ってたのかなあ」
(「田紳有楽」)
御承知のように、若い時分に読みふけったり撫でまわしたりした本を、ましてや数年の別れの後に身辺に散らかして、眺めたりのぞいたりするのは真に懐かしくて楽しいものです。埃除けのマスクをはめて、ハタキをかけたりナムバーを揃えて積みあげたりしながら、私は一時をすごして居りました。
(「空気頭」)
藤枝静男『田紳有楽・空気頭』)

「私は彼の求愛を受けていたの
私の18歳の誕生日にはすばらしい贈り物が用意されたわ
自宅の私の部屋に姉と共謀して準備したバースデー・ケーキは
彼が焼いたのではないわ
いくら天才でもケーキは焼かないと思うけど
小さなテーブルにケーキが
それで私が近づくと――テルミンと同じ原理で
真ん中に刺してある電気のロウソクが点灯してゆっくりとケーキが回りだすの
私が近づくと動きだして離れると止まる
まるで誕生日の魔法のようだったわ」
―クララ・ロックモア テルミンの名演奏者
(映画「テルミン」)

■020613
2002年6月テープ第二弾。
SIDE-A
_01 TANZMUSIC|山下康
_02 impure|SUGAR PLANT
_03 大好きな話|Spititual Vibes
_04 ふたりで出かけよう|LaB LIFe
_05 Tea forTwo|DETERMINATIONS
_06 Summer Breeze|JACHIE MITTOO
_07 Moon on Your Pyjamas|PAUL WELLER
SIDE-B
_08 Game of Love|HAKASE-Sun feat. Tommy February6
_09 Three Little Birds|BOB MARLEY&THE WAILERS
_10 ミルクティーUA
_11 ナイトクルージング -Plazma mix-|フィッシュマンズ
_12 虹 -morning track-|FLIP FLAP

■020612
スキャナが破損(ガラス面が割れていた)。引越しのときか。

■020611

想像してみてくれ。残りの人生がどうにも堪えがたい仕事に変貌したら、果たしてどんな気持ちになるか。
いや、世間の誰もがこう信じている。自分の人生はせめてマスターベーションと同程度には楽しいものだと。
チャック・パラニューク『サバイバー』)

■020609
日曜日、晴れ。
原宿でTさんとお茶。久しぶり。
街には青い服がいっぱい。
その者青き衣を纏いて金色の野に降り立つ……

昔、ニューヨーク・メッツが超弱体チームだった頃、監督だったケーシー・ステンゲルさんは、投手がメッタ打ちされると、頭に氷嚢(!)を乗せてマウンドに向かった。
さすがである。これではファンも怒りの向けようがあるまい。
高橋源一郎『これで日本は大丈夫』)

■020607

「(…)人間がどこまで打球を遠く飛ばせるか、それを捕球するために俊足の外野手がどこまで走って行けるか、そのどちらにも限界はない。ファウル・ラインは左右に分れてどこまでものびつづける。メジャー・リーグのグラウンドの一部でない場所はアメリカじゅうどこを捜したってない。どんなみすぼらしい貧民窟も、いちばん高い山のてっぺんも、五大湖も、コロラド川も、みなグラウンドの一部だ。グラウンドの一部でない場所は世界じゅうどこを捜してもないんだよ。
(W.P.キンセラアイオワ野球連盟』)

■020515
松屋」で晩飯「しょうが焼き定食」を摂りながら、平野啓一郎日蝕』を読む。
何だか変な感じ。

少年は、枝も折れむ許りの勢いで、身を乗出し絶え間無く鞦韆を漕いでいる。前方に放られた躰は、虚しく戻され引き絞った矢のように後方に懸かる。復放たれる。しかし、矢は決して到かない。その刹那に必ず掴まれるようにして引き戻されてしまうのである。そして、復放たれる。戻る。放たれる。……
平野啓一郎日蝕』)

■020514
火曜日。晴れ。
滅茶苦茶暑い。

そういえば、夢に出てきたレコードを探しにきた客さえいた。メロディもタイトルもアーティストも、彼ははっきりと覚えていた。そして、ぼくがレコードを見つけてやると(結局それは、古いレゲエの曲、パラゴンズの<ハッピー・ゴー・ラッキー・ガール>だった)、そのことまで夢に見たとおりだと言った。

しばらく前、ディックとバリーとぼくは、大切なのは自分が誰かなのではなく、なにが好きかということだという結論に達した。そしてバリーは、音楽/映画/テレビ/書物の基本をすべてカバーする二、三ページの質問表を作って、これからつきあう女をテストしてはどうかと提案した。a.ぎこちない会話を避け、b.とりあえずいっしょにベッドへ飛びこんだのはいいがその後のデートで彼女がフリオ・イグレシアスの全アルバムを持っていることがわかった、などというハメにならないようにするためだ。

もうどんづまりまで来てしまった感じがする。どんづまりと言っても、アメリカのロックンロールの自殺者的意味ではなく、イギリスの『きかんしゃトーマス』的意味だ。すっかり息がきれてしまい、どこでもない場所でゆっくり停止してしまった感じ。
ニック・ホーンビィ『ハイ・フィデリティ』)

■020513
月曜日。曇り。
書店へ。ジュンク堂池袋店1階のレジコーナーは壮観。

屋外の動物たちは、豚から人間へ、また、人間から豚へ目を移し、もう一度、豚から人間へ目を移した。しかし、もう、どちらがどちらか、さっぱり見分けがつかなくなっていたのだった。
ジョージ・オーウェル動物農場』)

■020512
日曜日、晴。
昨日借りていた、映画「ハイ・フィディリティ」を観る。
今シーズン、ほぼはじめて野球をフルタイム、テレビ観戦。

彼女はよく言っていたものだ。
Life is what happens to you while you are making other plans.
(人生とは、何かを計画している時に起きてしまう別の出来事のこと)と。
星野道夫長い旅の途上』)

■020511
土曜日、くもり。
休み。
家で過ごす。
読書。
フィッシュマンズを久しぶりにじっくり聴く。
夕方、「ロングシーズン」を聴きながら夜7時までうとうと。

種はパラシュートのように、セイタカアワダチソウの群れの真上を抜けて空高く舞った。
冬に向かう途中の、よく晴れた薄青の空だった。
梨木香歩『からくりからくさ』)

■020510
チョコミントアイス6本。

ひろがる空気のうしろにひろがる
それぞれの想い 僕たちの轍 消えたりしない
ポラリス/光と影)

無職とはいえよく本を読んでいるな、というのが第一印象。抜き書きはだいたいどれも今でも琴線。ストライク。