散文1

ひょんなことから昔自分がやっていたサイトのURLがわかったので、「WayBack Machine」で検索してみたら、少しだけだけどアーカイブされていた。(少なくとも自分には)面白いのでここに再掲してみる。

■2002年6月に聴く15曲(2002/6/10)
この4月、引越しにともなって部屋が狭くなったので、中古盤屋に売るなどしてCDをいくらか処分したのですが、それでも300枚くらいはまだ棚に眠っています。300枚っていうと、生活において音楽がかなりの比重を占めている人からすれば、たいした量ではないかもしれないけれど、ぼくはいまそれほど音楽を聴く人間ではありません。ときどき、っていうくらい。ジーザス&メリー・チェインというバンド名をど忘れしてなかなか出てこない、っていうくらい。CDウォークマンも持っていないくらい。もてあまし気味なわけです。

もったいないので、それに、映画「ハイ・フィデリティ」をみて影響されたというのもあって、オムニバステープをつくってみました。ところがこれがなかなか難しくて、結局できあがったテープ、この選曲はセンスがいいのか、ダサいのか、どうなのか、なんだかよくわかりません。ジャンルも時代も国境も白も黒もめたくた。それでもまぁただ棚に眠っているよりはまし。ということで、2002年6月はこれを聴いて過ごしています。新しいCDも買わなくていいし。ちょっとしたリサイクル、みたいな。

Compact Discは燃やしたりできないらしい/Compact Discは再利用できないらしい/でも君はそれを聴いて楽しんでいる/Compact Discは燃やしたりできないらしい/Compact Discは地球にとても悪いらしい/でも僕はそれを売って楽しんでいる/僕らは地球を考えて行こう/僕らは僕らを考えて行こう/僕らは娯楽を考えて行こう/僕らは明日を考えて行こう
Compact Discホフディラン

オムニバステープ 2002年6月
(SIDE A)01.You're Wondering Now|THE SPECIALS/02.Take a Run at the Sun|Dinosaur Jr./03.Digsy's Dinner|OASIS/04.Bad Days|FLAMING LIPS/05.月よりも|LaB LIFe/06.永遠のうた|羅針盤/07.I'm a Boy|THE WHO/08.Pretty Baby|Augustus Pablo
(SIDE B)09.Mayonaise|SMASHING PUMPKINS/10.Totally Confused|BECK/11.Since Yesterday (Original Ver.)|Marimari Rhythmkiller Machingun/12.Ob-La-Di,Ob-La-Da|THE BEATLES/13.ヤード|TOKYO NO.1 SOULSET/14.Downtown Train|TOM WAITS/15.Daydream|LOVIN' SPOONFUL

■ブックラック#03(2002/8/12)

先日、テレビで日本ハム(いま話題の、)―近鉄戦という、特に興味のないカードの野球中継をみるともなくみていて、興味のない、といってもそれなりに興味をそそるところもあるのだけれど、たとえば小笠原とノリのフルスイングとか、ローズの豪快な一発とか、ともかくその日はぼんやり見ていた、それでテレビ画面にちらっと写ったボールボーイ、じゃなくてガールか?、つまり球拾いの女の子がとてもかわいい。とても、というほどのことはないかもしれないけどかわいい、そうはいってももちろんどうしようもないという事実は動かないし、わかりきったうえでそんなことをかんがえていた。

テレビではナゴヤドームでの中日―巨人戦を中継していて、横浜ベイスターズ神宮球場でのヤクルト戦はラジオで中継されていた。いまこうして書きながらあの夜の結果を調べてみると、ホームランを三発打たれて五対〇で負けたらしいが、負けた試合のことは憶えていない。たぶん戸叶がランナーをためて交代した矢野がスリーランを打たれたあたりで聴くのをやめたのだろう。と言いつつ、その後も未練がましくスイッチを入れたり切ったりしていたはずだが、それよりも猫の病気の本を読んだりして、時間の流れに「身を任せる」ようなとりとめのない、全体としてとても受動的な気分だった。
保坂和志/生きる歓び)

 とにかく緑の半ズボンを穿いた左利きの男の子が抜群にうまい、ピッチャーの投げる球をストライクだろうが、ボールだろうがカラーバットで上手に打つ。それも全部ライナー性の当たりだ。
 しかし、私は不満だった。緑の半ズボンの子は公園をはるかに越えていくような大きな当たりを打たないのだ。おもいっきりしゃくり上げればいいのにと期待していると、ついにその子が打ったのだ。
 見事に当たりは公園をはるかに越えて、人家に飛び込むライトへのホームランを打ったのだ。私は思わず拍手をしようとしたら、ピッチャーの子が「ホームランはアウトだよ」と言うのだ。
 半ズボンの子はくやしそうにカラーバットを地面に投げつけた。どうやら公園の塀を越えて、人家に入ったホームランはアウトなのだ。
ねじめ正一/「ことば」を生きる 私の日本語修行)

 しばらくしたある日、かれらが角材のバットと布を丸めたボールで野球をしているとき、ボールの転がった位置に守っているはずの<骨>が背中を向けてズボンを降ろしていた。みんなが声をかけるとかれはそのまま振り返った、だれもが眼を瞠った。<骨>の性器は、かれのかたわらを転がっていった布ボールより球形に近く、また大きく腫れ上がっているのだった。かれらは<骨>を取り囲んだ。
 <骨>は脂汗を流しながらも笑っていたが、さすがに軽口は叩けなかった、二日も小便が出なくて、昨夜は痛みで一睡もできなかったと告げた。だれかが、そのなかに膿がいっぱい溜まっているんじゃないかというと、角材バットを持っていた少年が、角材を打ち貫いている釘を<骨>に示した。<骨>がそれまでにも出来物を釘やナイフで潰したことがあったのをみんな知っているから、かれがその釘で腫れた性器を引っ掻こうとするのをさして無謀だとは思わなかった。釘がためらいなく性器にぶすっと刺さり、引き抜かれたと同時にドバッと血の混じった鼻汁色の膿が飛び散ったとき、かれらは悲鳴をあげて跳ねのき、少しでも膿のかかったものは川まで走っていって飛び込んだ。
玄月/悪い噂)

その日、近所の、存在だけは知っていた百円均一スーパーマーケット、というところに行ってみたのだけれど、そこにはなんだかとっても負のオーラが漂っていた。それというのはたとえば従来の古本屋、古書店には漂ってなくて、「ブックオフ」のたぐいの古本屋に漂っている種類の負のようなもの、という気がした。
なにはともあれ、ナニワ友あれ、という赤井英和のテレビ(関西ローカル)があったような…、ぶたばら肉百円、アセロラジュース百円、キムチ百円、のりふりかけ百円、カップラーメン百円、合計五百二十五円(税込)の買い物をして帰った。アセロラ、というあたりがやっぱり負だ。

ところで、日本ハム近鉄戦をテレビでみたのも百円スーパーに行ったのも事実だけれど、同じ日に、というのはフィクション、というかうそだ。

(ブックラック#3)
保坂和志「生きる歓び」(『生きる歓び』 新潮社)/ねじめ正一『「ことば」を生きる 私の日本語修行』(講談社現代新書)/玄月「悪い噂」(『悪い噂』 文藝春秋

他に日記や掲示板なども少し残っていた。2002年6月〜8月というと個人史的には色々な意味で微妙な時期で、無職(ニートという言葉はまだなかった)だったし他にも問題を抱えていて、何ということもない文章だけどその「微妙」な心境や「問題」がにじみ出ているように思う。それにしても2002年でまだテープを聴いていた私・・・。