くつしたのような生き方のすすめ

 全和歌山県民の羨望の的(?)、南紀白浜キッチュな名所、ホテル川久でランチ、プール、温泉。妻のお姉さんが招待券をプレゼントしてくれたのだ。
 写真の通り「メルヘン」かつ「デカダン」な、奇妙で豪奢な建物、内装。車で着くなり駐車スペースに係員が誘導、ドアーまで開けてくれる。すごく空いている。100年に一度の大不況がここにも? と思う。
 そして食事は期待に違わず「昭和のごちそう」的なラインナップ。メロンon生ハムのオードブル、ミートソースのパスタ、魚料理はヒラメonホタテ、肉料理は牛ロースステーキ、デザートにケーキ+アイス(チョコレートソース)。窓の外はオーシャンビュー(でも養殖ビュー)。
ロビー(なぜか照明がとても暗い)には一本一億とも噂される大理石の柱がズラリ。プールの前室には昭和バブリーな内装に似つかわしくない(ある意味とても似つかわしい)うらぶれたゲーセン。大浴場には「馬油シャンプー」。
 貸切状態の浴槽に浸かりながら、「いつかこの情景を小説に書きたい」なんて考えながらぼんやり、ゆっくり。ロビーに戻ると「ラグジュアリー」の代名詞のようなソファーに、先に戻っていた妻がいた。20分は待っていたとのこと。ぼくはふだん、極端に風呂が短いので、こういうことは珍しい。
 川久ワンダーランドをまんまと満喫、「キッチュ」という言葉を生まれて初めて「体感」した数時間。

 帰りに田辺市内のブックマーケットで狩猟。久しぶりの古本屋でお腹がゆるくなる(本屋に行くとトイレに行きたくなる!)が、妻の分も含めて4冊を。
 「苺畑の午前五時」。松村雄策の唯一の小説にして、ビートルズの音楽を背景に展開するビルドゥングスロマン。ストロベリー・フィールズ・フォーエバー。文庫で持っているが、50円で投げ売りされていたため、救助。読みたい人か、ぼくが読んで欲しい人にあげようかな。あるいは、友人で、欲しい人がいたら名乗り出てください。よしもとよしとも青い車」。高3の頃、ページが擦り切れるほど読んだが、実家の物置に眠っているため、しばらく読めなかった(読みたいとも思っていなかった)が、最近、読みたくなっていたところだった。これも100円で救済。そんなに興味のなかったフィッシュマンズを聴こうと思ったのは、この本を読んだからだったな、とさっき急に思い出した。筑摩書房の日本文学全集の端本「宇野浩二葛西善蔵牧野信一」集。葛西善蔵「子をつれて」とか、読んでみようかな、と、これも100円。妻が読みたかったという柳美里「自殺」は200円。

 そのあと、同じく田辺市内のnuL(ノル)という服屋さんへ。Ebony ivoryとかbulle de savonとかのナチュラル系(と書きつつ、よくわかっていないが)。妻が欲しかったワンピースは試着したもののサイズが合わず、たまたま好みのジーンズ(生地とステッチが同色!)を見つけたぼくがそれを買うことに。裾上げを待っているあいだ、レジ前の、先日妻が置いてもらった中川貴雄「Happy Go Lucky」展(盟友、パタゴニアン・オーケストラがライブをします!)のフライヤーをチェックしつつ、他のチラシやフリペを見ていたら、靴下のなかにA6サイズほどの小さな本が。
 「The Book of Socka and Stockings」と題された「日本靴下協会」なる業界団体編集のその本の冒頭には、「くつしたのような生き方のすすめ」とあり、靴下にまつわるフェティッシュな蘊蓄がズラリ。美しいその本の奥付を見ると、編著は荒俣宏(!)、装丁は葛西薫(!!)。
 思わずレジで「これ売り物じゃないんですか?」と聞くが非売品とのこと。帰ってウェブで調べてみると、1993年発行の同協会のノベルティ・グッズらしい。「nuL」に通って読むしかないかな。欲しい!